マリアナ海溝とエベレスト

小説

第二話 メビウスの輪

反転??

一週間が経ち、美術での勝負が始まろうとしていた。

お題はゴッホの『ひまわり』、たとえ模写といえど、流石に難しかった。
完成度はお世辞にも高いとは言えない。

だが、最大限の努力はしてきた。
前にも言ったが、ボクは負けることが大嫌いだから。

「では、開始!!」

美術部の方々に協力してもらい、勝負が始まった。

制限時間1時間の間にどれだけ忠実に再現できるかが勝負だ。

向かい合ったボクと大和は、お互いにどんな絵を描いているのかが分からない。
だが、ボクは事前に作戦も立ててきた。

描いている大和の顔を見れば、出来が大体わかる。
もし、大和の出来がいいのなら向日葵を集中して描き、繊細さで勝負する。
大和の出来が悪いのなら全体的な再現度向上に全力を尽くす。

そう事前に決めてきているボクは、迷いなく描くことができた。

目の前には、終始変わらぬ顔が浮かんでいる。
勝負開始から変わらない、眉間にシワがよった顔だ。

出来が悪いんだな。

        

「時間です。」

1時間経ち、ボクと大和は手を止めた。

そして、お互いの絵を前に飾る。
飾ってある二つの絵を美術部員や顧問に見てもらい、多くの票を獲得した方が勝利。

二つの絵を眺めながら、ボクは勝利を確信した。

やはりな。という言葉しか思い浮かばない。
大和の絵はゴッホの絵とはかけ離れていた。
再現度はかなり低い。

むしろ、大和が描いたものにしては、不出来すぎた。
大和の絵を見たことがあるわけではないが、大和もボクと同じで、ある程度のことはそつなくこなす。

「どうした??大和。練習時間が取れなかったのか??」

ボクは、大和に声をかける。

「いや、時間はたくさんあったんだよ。でも、どうもうまく出来なくて。」

弱気な声で語る大和の声には、諦めのような感情を感じた。

  

投票が終わり、開票作業が行われた。

その工程にボクらはノータッチ。
ただ、ボクの勝利が告げられる瞬間を待つだけだった。

「開票が終わりました。結果を発表します。今回の美術対決、私たちが下した決断は ー 」

美術の先生の言葉で勝負は決した。

判定の理由の説明も終わり、気をきかした審査員たちは、美術室に二人きりにしてくれた。

足元では、複雑な顔をした大和がしゃがんでいる。

相変わらず、変な顔だと思いながら、ボクは一人で美術室を出た。

ボクは、いま大和にかける声が見つからなかった。

先生の言葉が、耳にこべりついて離れない。

  

「私たちが下した決断は、大和の勝利」

つづく

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